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大阪地方裁判所 昭和27年(ワ)1984号 判決 1956年4月25日

原告 金森日皐

被告 青柳日勝

主文

被告が大阪市南区西高津中寺町二六番地本行寺に関する寺院登記簿に昭和二七年四月二一日為したる原告の主管者解任及び被告の主管者就任の登記並びに同年四月三〇日為したる被告の就任年月日の更正登記の各無効なることを確認する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は二分し、その一を原告の負担、その余を被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「主文第一項同旨及び昭和二七年四月二一日に為されたる主文掲記の寺院登記簿の主管者氏名住所欄記載の抹消登記を回復する。被告は同寺院に立入つて原告の同寺院に対する占有を妨害してはならない。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、原告は昭和二〇年一一月一四日から右本行寺の住職(主管者)であるが、同寺院は宗教法人法華宗(以下単に法華宗という。)の所属であつたところ昭和二六年一一月二三日宗教法人法第一二条、同法附則第十三項の規定に基き法華宗から離脱することを決議し、昭和二七年三月二二日その旨公告し且つ同日法華宗に対し書面をもつて右離脱の通告を為し、同書面は翌二三日法華宗に到達した。而して法華宗は元来単称法華宗(陳門流)、本門法華宗(本門流)、本妙法華宗(真門流)の法華三流か戦時中合同したもので一管長三総監(三門流各一名宛の総監設置)の制度の下に運営して来たものである。然るに本門流総監松井正純か余りにも専断横暴を極めたため次第に三門流間の平和を欠き事毎に意見の衝突を来して合同宗団の円滑な運営が出来なくなつたので、昭和二五年頃から三流分裂(復元)の議起り、遂に昭和二七年三月三一日宗制第四〇条により総監会議の決議をもつて法華宗は解散したのである。これよりさき前記の如く本門流総監松井正純の専制横暴は日に募りあたかも法華宗を私物化し、徒党を組んで宗政を壟断し反対派の宗会議員を宗規を無視して除名する等傍若無人振りを発揮し、これがため本門流内部にも批判声起り、遂に法華宗所属大本山妙蓮寺か昭和二七年二月一日法華宗を離脱し本門法華宗の設立を宣言し、これに続いて同門流所属の寺院教会約百ケ寺が続々法華宗を離脱して右新設立の本門法華宗の傘下に加盟し被包括関係に入るに至つた。本件本行寺が前記の如く離脱したものも右事由に基くもので、離脱と同時に本門法華宗に所属したのである。然るところ右総監松井正純は大本山妙蓮寺の離脱独立並びにこれに加盟する寺院教会の意外に多く且つ今後続々離脱するの情勢を見てにわかに周章狼狽し、今後の離脱防止と既に離脱した寺院の奪回を目的として昭和二七年四月八日以降同年五月末日迄の間に離脱寺院の内七ケ寺の住職を次々と罷免し、その旨公表して檀信徒及び関係者をしてあたかもその住職に罷免に価する欠陥があつた如く誤認せしめ、且つその住職の解任登記をすることにより住職として権能を妨害し、もつて離脱寺院の住職に対し離脱の翻意を促し、離脱手続中の寺院教会の主管者に対しては離脱を断念せしめんと策したのである。然しこれら罷免を受けた住職の罷免事由はいずれも虚構の事実又は捏造の事由に基くものであるが罷免事由の如何に拘らず後述の如く右罷免は離脱後であり且つ法華宗解散後のことであるから無効のものである。原告も右同様の趣旨と事由により住職を罷免せられた一人である。即ち原告は離脱したが故に又他の離脱を防止する目的の下に昭和二七年四月二二日原告に到達したる同年三月二〇日附宣戒状(罷免状)をもつて虚構の事実と牽強附会の事由により本行寺住職を罷免せられ、被告が原告に代り右住職に任命せられた。それで被告は右松井正純の命を受け同年四月二二日に、原告の同年三月三〇日解任と被告の同年四月一日就任の各登記を大阪法務局に申請しその旨登記が為されたところ、被告は前記の如く法華宗が同年三月三一日解散したこと、従つて同年四月一日の被告就任登記の無効なることに気付き、同月三〇日に被告就任の日附を三月三〇日と更正登記をしたのである。

然しながら(一)本行寺は法華宗に対し、前記の如く既に昭和二七年三月二三日到達の書面により離脱の意思表示を為したのであるから同日以降は最早法華宗の支配権は本行寺及びその住職に及ばないので、離脱後にかゝる法華宗の原告に対する住職罷免は無効である。(二)法華宗は前記の如く昭和二七年三月三一日解散し、これと同時にその所属寺院教会との包括関係は消滅しその住職を任免する権能を失つたところ、被告に対する罷免はその日附は同年三月三〇日であるが到達は同年四月二二日であるから解散後に罷免したことは明らかである。従つて法華宗の原告に対する罷免は無効である。(三)罷免も意思表示であるから該辞令(宣戒状)の日附に拘らずそれか原告に到達した時に初めて罷免の効力を生ずることは明らかでありとの効力が生じて初めて解任登記請求権が発生し、これに基き解任登記申請か為し得られるのであつて、解任の効力が発生しない以前に為された解任登記の無効なることは勿論である。然るに本件罷免通知が原告に到達したのは昭和二七年四月二二日(投函はその前日なる同月二一日)であり、解任登記が為されたのはその前日なる同月二一日であるから、右登記は無効のものである。(四)法華宗の為した罷免事由は、その当時宗内派閥の争のため反対派のものか針小棒大に宣伝したが結局不問に附せられた事案であつて、原告及び本行寺が法華宗を離脱したか故に且つ他の離脱を防止するの目的をもつて原告を罷免したことは明白であるから右罷免は宗教法人法第七八条に該当する離脱者不利益処分行為として無効である。右は本件のみでなく当時法華宗から離脱した七ケ寺の主管者を一斉に解任した事実から見ても明らかである、(五)法華宗が原告に対し為した擯斥、住職解任の処分は所定の手続を経ていない無効のものである。即ち法華宗本門流宗規によれば「擯斥に該当する事犯」に関する規定(宗規第三五七条)はあるが、懲戒事犯の告発起訴審判等に関する規定を一切欠如し、唯審判の結果を執行する機関が総監である旨の規定(同第三七〇条)があるに止るか、内局の権限に関する規定の中第三五条に「内局は褒賞徴戒に関する事項を決す。」とあつて、内局(総監及び部長四名で組織)は審判自体を為す権能はないが徴戒事犯の起きた場合如何なる機関を設けてこれを調査せしめるか、又如何なる機関をして審判せしめるか等を決定する権能を有しているのであつて、実際の取扱もその様になつている。而して宗教団体であるから褒賞の方は屡々行われたが徴戒の方は滅多に行われたことなく、稀に之を行う場合特に擯斥(刑法死刑に該当)、住職解任というが如き重大案件については、従来より必ず調査機関を設け或は宗会の特別委員会に附議して審判せしめ、又被疑者本人は勿論檀徒総代、教区長、所属本山貫主等の意見を徴し慎重に処理しているのであつて、この方法は古くからの慣例で法華宗本門流の不文法である。然るに本件原告に対する擯斥並びに解任処分は上記の手続を践まず松井総監一人の一存で決定し執行されたものであつて、権限のないものが正規の手続を経ずに為した全く無効のものである。以上の通り原告に対する罷免行為はいずれの点によりするも無効であるから之と表裏の関係にある被告の就任も無効である。従つてかゝる無効の罷免、就任を登記原因として為された本件各登記はいずれも無効のものである。而して被告は叙上の如く離脱防止と寺院奪回の特殊目的のために任命せられたものであるから、本行寺に対し強引に乗込まんとしているが、原告はその家族と共に現実に同寺に居住し生活を営んでいるものであるからその占有を妨害せぬよう請求するものである。よつて本訴提起に及んだと陳述した。<立証省略>

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告主張の事実中、原告が本行寺の住職(主管者)であつたこと、右本行寺が法華宗の所属であること、原告は昭和二七年三月三〇日附をもつて法華宗管長より右本行寺の住職を罷免せられ、これと同時に被告は同寺の住職(主管者)に特命せられ且つ寺院に関する登記簿上昭和二七年四月二一日附をもつて原告の解任登記と同時に被告の就任登記、更に又被告の就任登記の年月日につき更正登記を為したことはこれを認めるが、その余の事実はすべて争う。原告は、本行寺と法華宗との被包括関係は昭和二七年三月二三日限り廃止せられたのであるから、その後に当る同年三月三〇日附法華宗の罷免権行使は原告に対し効力を生じないと主張するけれども、宗教法人法附則第五項によれば、新宗教法人の設立を為すためには所轄庁の認証を得る必要があり、又設立登記をも為す必要があるに拘らず、原告は未だこれらの必要な手続を終えていないところ、同法附則第一三項によれば、旧宗教法人と当該旧宗教法人を包括する宗教団体との被包括関係の廃止は、当該関係の廃止が当該旧宗教法人で第五項又は第六項の規定により新宗教法人となることに伴う場合に限りすることができるものとするとあるが故に、原告が昭和二七年三月三〇日本行寺の住職を罷免せられるまで法華宗との間に被包括関係のあつたことは明らかであり、従つて原告の右主張は不当である。原告は又法華宗は昭和二七年三月三一日解散したから原告との間の被包括関係は消滅したものであると主張するが、かかる解散の事実は全然なく、ただ将来宗教法人法に基く新宗教法人としての手続が完了した場合には当然解散する旨の総監会議の決議が存するに過ぎない。而も新宗教法人の設立完了により法華宗が解散するも現在法華宗の宗教法人として有する一切の権利義務が包括的に承継せられるから、本行寺との被包括関係も当然新宗教法人に承継せられる。従つて法華宗解散云々の主張の如きは不当も甚だしいものである。又原告の主張によれば、宗教法人法第七八条を引用し、法華宗より原告に対する罷免権の行使は、原告と法華宗との被包括関係の廃止を防ぐ目的をもつて為されたものであるから無効であるというが、事実は宣戒状の理由に明らかな如く、原告は本門流宗規第三五七条第一項第一号に所謂「教義信仰に違反し異議を唱えるもの」等に該当する行為を為したため罷免せられたのであつて、被包括関係の廃止を防ぐために罷免せられたのではない。換言すれば、法華宗宗則第二乃至第四条により明らかな如く、又宗規第一乃至第三条によつても明らかな如く、苟しくも日蓮、日隆両上人の伝統を継ぎ教義並びに信仰の道場として大曼荼羅御本尊を奉按する絶対神聖なる本堂において、真言宗の祈祷僧をして昭和二六年六月二二日より同月二五日に至る間胡瓜を用いる諸病封じの祈祷を行わしめたるが如きは、本行寺を主管する住職として正に言語同断の所行であつて宗門僧俗の批難攻撃に直面したのは当然であり、原告は之に堪え難く遂に脱宗を為さんと決意したものと解せられるのであつて宗規に照らし罷免せられたのは当然の処置であり無効となるべき筋合はない。以上により原告の主張は失当として排斥せらるべきであると陳述した。<立証省略>

理由

原告が本行寺の住職(主管者)であつたこと、本行寺か法華宗の所属であつたこと、原告は法華宗より昭和二七年三月三〇日附をもつて本行寺の住職(主管者)を罷免せられ、これと同時に被告は同寺の住職(主管者)に任命せられ且つ寺院登記簿上同年四月二一日原告の解任登記と被告の就任登記、更に同年同月三〇日被告の就任年月日につき更正登記を為したことはいづれも当事者間に争なく右解任登記により右登記簿上原告の本行寺主管者氏名住所欄の記載が抹消せられたこと及び本行寺が宗教法人法(昭和二六年法律第一二六号以下新法という。)の施行せられた昭和二六年四月三日当時宗教法人令(昭和二〇年勅令第七一九号以下旧令という。)の規定による宗教法人(以下旧宗教法人という。)として現存していたことは、成立に争のない甲第一号証により明らかである。而して右新法施行の日から昭和二七年一〇月二日迄は旧令廃止新法施行に伴う経過期間であつて、旧宗教法人は右期間中に新規則を作成し所轄庁にこれが認証を申請すること、右認証を受けたときは設立登記をすることにより、転換して新法の規定による宗教法人(以下新宗教法人という。)となることができるのであるが(新法附則第五項、第六項、第一五項)、旧宗教法人の被包括関係の廃止は右新旧転換に伴う場合に限りこれを為し得るのであり、(同附則第一三項)、その廃止の手続は、旧宗教法人において該法人規則の変更に関する手続に従つて新宗教法人とならうとする旨の決定を為し且つ新法の宗教法人設立に関する規定に従い包括宗教団体の記載事項のない、但し従前の被包括関係を廃止して新たに他の宗教団体と被包括関係を設定するときは、この新包括宗教団体の記載事項のある新規則を作成し、該規則につき所轄庁に対する認証申請の少くとも一月前に信者その他利害関係人に規則の案の要旨を公告し、これと同時に旧宗教法人を包括する宗教団体に対し当該被包括関係を廃止しようとする旨の通知を為すことを必要とし且つこれをもつて足るものと解せられる(同附則第一一項、第一四項、新法第一二条第三項)。

そこで本件について観るに、証人金森天章の証言と同証言により成立の認められる甲第二号証の一乃至三(同三については郵便官署の作成の部分は成立につき争はない。)、同第五号証の一及び成立に争のない同第二号証の四によると、本行寺は新法の施行により昭和二六年一一月二三日寺院規則に従い檀徒総代三名同意の下に新宗教法人に転換すること、及びこれに伴う新宗教法人の規則を作ること、但し従来の被包括関係を改め、法華宗との被包括関係を廃止して新たに宗教法人本門法華宗の被包括に加入することを決議し、右新包括宗教団体の記載事項ある新寺院規則を作成し昭和二七年三月二二日右新規則の要旨を信者その他利害関係人に公告するとともに、同日書面をもつて法華宗に対し同宗との被包括関係の廃止を通知し、同書面は翌二三日法華宗に到達した。次いで原告は本行寺主管者として同年五月九日所轄大阪府知事に対し右新規則の認証を申請し即日受理せられたことが認められる。右認定を妨げる証拠はない。然らば本行寺は法華宗との被包括関係廃止の手続を適法に履践したものというべきところ、右廃止の効力発生の時期については新法附則及び旧令共に特別の規定がない。(新法第三〇条の規定に徴すると被包括関係の廃止はその認証書の交付により発効するものと解せられるが、同規定は新法により設立せられた新宗教法人が被包括関係を廃止する場合に適用あるものであつて、本件本行寺の如く当時未だ新旧転換手続中に属し、新法附則第三項、第四項により旧宗教法人として存続し、旧令が猶効力を有していた寺院に対しては右新法規定の適用を見ない。)従つて一般法たる民法の意思表示に関する規定により、右廃止の通知が相手方に到達したときよりその効力を生ずるものと解すべきを相当とする。けだしここに被包括関係を廃止することは、被包括宗教団体がこれを包括する宗教団体との包括契約を将来に向つて終了せしめることであり、それは正に憲法が保障する信教の自由に由来する権利の行使に外ならない。従つて一般解約権の行使と同様相手方に対する一方的意思表示により之を為すべきであり、従つてその効力は民法の原則により相手方に到達したときより発生するものと解すべきは当然であるからである。然らば本件本行寺の法華宗との被包括関係の廃止は叙上認定した昭和二七年三月二三日法華宗に右廃止通知の到達によりここにその効力を生じ両者間の所属関係は消滅したものといわなければならない。

被告は、新宗教法人を設立するためには寺院規則につき所轄庁の認証を得た上設立登記を為す必要があるに抱らず当時本行寺はこれらの手続を終えていなかつたから、被包括関係の廃止は未だ為し得なかつたのであり、従つて昭和二七年三月三〇日原告が本行寺の住職を罷免せられる迄本行寺と法華宗との被包括関係は存続していたと主張するけれども、旧宗教法人が被包括関係の廃止を為し得るのは新法附則第一三項の規定に徴し、専ら新旧転換に伴う場合に限るものであることが明らかである。而して前段認定した如く本行寺は既に右廃止の手続を新宗教法人えの転換に伴い適法に履践しその効力は昭和二七年三月二三日生じたのである。従つてこれに反する被告の右主張は採用できない。

そうしてみると、たとい昭和二七年三月三〇日法華宗は原告に対し本行寺住職(主管者)を罷免し同時に被告を同後任に任命しても、右処分は本行寺が法華宗と被包括関係にあることを前提とするものであるから、この前提を欠くこととなり爾余の点につき判断を為すまでもなく無効たるを免れない。従つて被告が為した本件寺院登記簿上原告解任、被告就任の各登記及びその更正登記も亦無効であるというの外ない。而して原告が罷免せられるまで本行寺の住職であつたことは被告の認めるところであり且つ反証なき本件においてはその後も引続き同寺院の住職(主管者)の地位を保有していたものと認むべきところ、成立に争のない甲第一〇、第一一号証と証人金森天章の証言によれば原、被告はさきに夫々自己を同寺院の住職(主管者)であるとして同寺院を新宗教法人たらしむべく双方より所轄庁なる大阪府知事に対し新宗教法人本行寺の規則につき認証を申請していたが、昭和二九年四月一日同知事は原告の申請に対し認証を決定し、被告の申請に対しては不認証の決定を為したので、原告は右認証書の交付を受け同年同月五日原告を代表役員とする新宗教法人本行寺(以下新本行寺という。)の設立登記を完了したことが認められる。従つて同日原告を代表役員とする新本行寺は成立し、これと同時に旧宗教法人本行寺(以下旧本行寺という。)は解散したものといわなければならない。(新法附則第一八項)。然しそれはあくまで原告が旧本行寺の住職(主管者)の地位にあつたこと、従つて被告の為した原告の右主管者解任、被告の同就任及びその更正の各登記がいづれも、無効なることを前提とするものであつて、もし右各登記が有効であり原告が右地位になかつたものとすれば、たとい原告は新法の規定により新本行寺の寺院規則を作成し所轄庁の認証を受け登記を完了したとしても、これによる新本行寺の成立も原告の同寺院の代表役員たる地位もすべて否定されるを免れないことになる。然らば、被告が原告の旧本行寺住職(主管者を解任せられ自己がその後任に就任したことを主張し該登記の無効を争う以上、原告は被告に対し右登記の無効たることの確認を求める利益を有することは明らかである。

猶原告は旧本行寺の寺院登記簿上主管者氏名住所欄記載の抹消登記の回復の宣言を求めるけれども、原告の解任登記が無効であり、従つてかゝる登記により抹消せられた登記事項がありこれが回復を為すべき場合においても、右回復は当事者の申請又は登記官吏の職権により為さるべきであつて、回復そのものにつき特に形成判決を求める必要なきは勿論、これが規定も存しない。従つてこの点に関する原告の請求は失当というべく、次に占有保全を求める点につき考えるに、昭和二九年四月五日原告を代表役員とする新本行寺が成立し、旧本行寺は解散したことは叙上認定したところ、原告は旧本行寺より引続き新本行寺の寺内に居住しているとしても、被告が上記原告の罷免と自己の就任の有効を主張し、前記登記の無効を争うからといつて、これにより直ちに被告は右寺院に対する原告の占有を排して強引に乗込まんとしているものと認めることはできないし、又たとい被告は原告に右明渡を求めている事実があるとしてもこれをもつて右認定を覆すに足る資料と為し難く、他に原告の占有が妨害せられるおそれあるものと認むべき証拠はない。

以上の次第につき、原告の本訴請求中登記の無効確認を求める部分は正当として認容せらるべきであるが、抹消登記回復及び占有保全を求める部分は失当として棄却を免れない。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 畑健次)

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